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駄目オタ徒然草
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「永久に失ったとしたら…」(書評:紫の砂漠 松村栄子)
「紫の砂漠」 松村栄子(ハルキ文庫)
2004年8月読了

 知る人ぞ知る、非常に叙情的な文を書く芥川賞作家。松村栄子の作品。といっても、彼女が今まで書いてきた受賞作「至高聖所」や「生誕」といった、いわゆる純文学とは異なる。
 これはファンタジー小説である。

 今よりも遙か未来、地球とは別の場所、別の文化を持ち、別の姿形をした人たちの物語。
 彼らは、私たちが広大な母なる海を臨みながら、そこに希望を見いだすのとは対照的な感情を持ち、あるいは、それ以上の畏敬をもって、眼前に広がる「紫」色の砂漠、デゼール・ビオレをその日々の景色として受け入れ暮らしを営んでいる。
 主人公シェプシは、人々が恐怖し、避ける砂漠にあこがれ、辺境の塩の村に暮らす少年(少女)である。
 実は、( )でくくったのは、理由がある。彼らは性未分化種であり、「真実の恋」を見つけると、「生む性」「守る性」に分化し、それぞれ女性・男性となる。彼らの文化は、この性未分化と一つの神話に支配されている。神話は、3つの神が、順に現れ、3つ目の神が現在を支配するという構造をとる。
 そして、現在・過去の地球の神話が、ある種の統治構造を構築するために編まれるのと同様に、この星の神話も、性未分化の生物的性質を利用しつつ絶妙にその統治構造の基盤になっていることが徐々に明らかになっていく。

 もっとも、それはあくまで舞台設定であり、そこにあまりこだわると、この物語を理解できなくなる。が、実は、この舞台構造こそが本作品のテーマ、少年(少女)の成長と、真実の恋の発見・喪失というテーマの基底構造を形成していることに、最後まで読むと気が付く。

 さて、冒頭のあらすじを書くと、塩の村にすむシェプシが、少年期を過ぎ、この世界の決まりに従い「詩人」と呼ばれる官吏(?)に付き従って、書記の町に旅立つ直前から、この物語が始まる。
 シェプシは、幼い頃からデゼール・ビオレを眺め、この無機質の荒野に心を「飛翔」させることを心から愛する、この世界では「変わり者」である。
 ある日、シェプシは「銀盤」と呼ばれる不思議な音を奏でるものを手に入れるのだが、実はこれは神話と、その統治構造を完結させるために重要なアイテムらしい。
 そして、その日が到来し、シェプシは「詩人」に従い、その銀盤を携えたまま書記の町に旅立つ。が…、数ヶ月にわたるその徒歩での旅の途中、シェプシは禁を破り、デゼール・ビオレに足を踏み入れ、そこで…。

 これ以上語ると、この話の核心を語ってしまいそうで、それはさけるが、このような舞台設定に興味を持たれるのならば、是非、一読をおすすめする。
 文章は、冒頭に書いたように、非常に叙情的。それは、純文学作品としてかかれた従来の作品と違い、時としてこの作品の舞台背景を語るには、舌足らずになることもある。が、それでこの作品の魅力がそがれることはないだろう。説明不足がよいとは言わないが、ある意味で、舌足らずは、この作品の神秘性に加効している要素でもある。

 ところで、叙情という言葉以上に、この作家の文章を一言で表す言葉を探すならば「焦燥感」であろう。せかされるように、前のめりにつづられる彼女の文章は、作中の主人公の「生き急ぎ」をより切実に表現する。
 このような言葉の持つ感情により、この作品は、その言い回しの難解さ、会話の出所が不明確と行った読みにくさにかかわらず、一気に読める好作品である。

 ちなみに、ファンタジー小説を読むのに抵抗をもたれる方は、この作品を読まれる前に、是非「001にやさしいゆりかご」を読まれるといいだろう。この作家が、もっとも「大衆小説」に近づけて書いた作品であるが、実は非常に名作だと、私の中では位置づけられている。
 まあ、それはまた、別の機会に。


 リンクの調整などの際に調べてみたら、「001にやさしいゆりかご」は、絶版で、なかなか入手困難らしい。まあ、読もうと思えば、図書館などで検索をかけるなど、手間をかければいくらでも、読みたい本が読める時代であるから、たいした問題ではないと思う。
 特に、この本は、そういう手間をかけて読むに至るにふさわしいほどの良書だと思われるので、是非是非気になった人は読んでほしいと思う。
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