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駄目オタ徒然草
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「最優先事項?」(アニメ評:おねがい☆ティーチャー)
「おねがい☆ティーチャー」 全13話
制作:童夢 監督:井出安軌 音楽:I've/折戸伸治
onegai

 正直に話すと、この作品に対しては、無数の勘違いをしていた。ひとつは、これが「エロゲ原作である」と思っていたこと。「普通のボーイミーツお姉さま」であると思っていたこと。「OVAである」と思っていたこと。「リビドー全開のエロアニメ」だと思っていたこと。

 ……今は反省している……。

 そもそも、なぜこの認識を覆されたかと言えば、YouTubeにあったこの動画、
http://www.youtube.com/watch?v=cQZBDlJ-1gc&search=Snow%20Angel
を、たまたま、本当にたまたま、KOTOKOのプロモ検索で見つけたからだ。この動画の一部、ヒロインの風見みずほが宇宙船らしきコクピットでホログラフディスプレイを操作していることから、「単なるラブコメ」ではないということはわかった。それだけでも驚きだった。
 加えて、その動画の質。このプロモ自体は、後で本編とは別に作られた新作であるということを知ったのだが、この作画、特に動画の質に圧倒された。どこがすごいかは、後述するが、女性をかわいく見せるための微妙な動作を、ほぼ完璧にトレースしている。これは、ただごとではない!

 あわててWikiを調べた。違う、全然違う! 思っていたような作品ではない! エロゲ原作ではなく、オリジナルアニメではないか! OVAなんかではなく、WOWOWで放映されているではないか! 確かにちょっとはエッチではあるが、それはホントに刺身のつまみたいなモノではないか!

 ちょうど、TSUTAYAの半額セールの日に気がついたので、あわててTSUTAYAに直行。借りてきましたとも! 借りてきて、見始めた。
 こっ……これは……。

 主人公の人生に関わる重大な疾患という限定条件は、新味はない。ヒロインが年上で先生というのも、まぁ、少なくはあるけど、斬新というわけでもない。そのヒロインが実は宇宙人(遭難した有人火星探索船の乗組員を助けた宇宙人とのハーフ)で、主人公とヒロインがその秘密を共有するというのも、それはそれでよくあるハナシ。それを隠すために同居(本作品の場合は結婚)するというのも目新しくはない。
 ストーリー自体、設定自体は実際に、新機軸はみつからなかった。

 では、何がこの作品の魅力かといえば、まず、キャラクターの造形がその最大のものだろう。
 なんといってもヒロインの風見みずほのキャラクターが秀逸。若いのから年寄りまでの男性の普遍的願望…というより、妄想を形にしたら、こういうものができましたという、まさにそのもの。
 頭はいいが出しゃばらない。抜けているところも見せてくれて、それがまた愛嬌がある。尽くすし嫉妬もしてくれるが、引いてほしいときには引く。もちろん、容貌・スタイルともに文句なし。めがねも似合う(笑)。何より一途。適度にエッチ^^;。
 もちろん設定だけではない。その設定を具現化する「絵」がまたすばらしい。例えば、抱きついてくるその瞬間、わ~っと、一直線にくるのではなく、目の前での「ため」を、ちゃんと絵で表現している。振り向き見上げる顔の動き一つとっても、まずあごを引いてから、視線だけ上げ、その上で軽く上向きの顔の動きを入れる。
 万事、この調子でやられる。二次元は二次元と分別が付いている僕でさえ、どきどきしてしまった(笑)。これだけ破壊力があるキャラクターなので、主人公に感情移入できる部分が少なくても(というより、この主人公はよくよく見ると、ひどいジゴロだ^^;)、このヒロインとの共感を得るために強制的に感情移入しなければならないシステムになっている^^;
 キャラの描き方といえば、声を当てている井上喜久子さんが本当にぴったりと役にはまっている。ベルダンディーでは「ババくせぇ女神さま…」と思っていたのが、すごくつやのある演技をしていて驚いた。この人、その声質の割にはこういう生々しい色気のある役の方がはまり役なんだなぁと思う。

 それから、もう一つの魅力はその「背景」にある。この舞台は実際にある場所を写真で撮り、そこから背景を描き起こすという、最近の恋愛シミュレーションでよく使われる(らしい)やり方で背景が描かれているようだ。
 で、その描かれ方がまた美しい。舞台は夏なのだが、夏の熱気やにおいまで伝わってきそうなほどに、光と色のつやが見事に表現されている。
 実際に、この場所はこの作品の放映後、ファンが多く訪れ、その行為は「聖地巡礼」と言われるらしい。現に彼らの聖地巡礼報告ブログで写真を見るに、とても美しい風景の場所だ。本名で加入しているmixi(当然、オタ趣味は極力隠している(苦笑))のマイミクが、この半年間で2人も聖地巡礼しているのには、おどろいたが…。
 そのうち一人は↓
http://blackleg.blog57.fc2.com/blog-entry-8.html
 またあんたか、くろさん!w

 さらには、音楽もいい。あんまり説明の要もないと思うがI'veが、初めてメジャー作品に関わり、その所属歌姫のKOTOKOと川田まみをフューチャーして、物語のテンポを良くしている。
 音楽といえば、そのオープニングのアニメーションがすばらしい。一見何気ないキャラクターの紹介のように見えるが、よく見てみると、カメラを振ったときの微妙なブレや、ピント合わせのタイミングなどが再現されている。ヒロインたちも、カメラに向けて話しかけるような動作で演技をしている。ちょうど視聴者がハンドカメラでヒロインたちを写しているようなそんな錯覚を起こさせる。これでつかみはOKという感じ。

 ということで、この作品は、キャラクター造形、背景、音楽が、見事にコラボレートしてできあがった、すばらしい一面を持つ。

 ただ、ストーリーはというと、かなりきついなぁと…。おもしろくないとは言わないけど、せっかく用意した主人公の限定条件が「難病」以上の道具になり得ていない。3年間の停滞(最低限の生命維持機能だけを残して、そのほかの活動が停止する。主人公はこの発作のため3年間眠っていた)が主人公に与えたであろう心理的負担がなかなか目に見えて主人公のハードルにはならない。むしろ病気そのものがハードルであるならば、「停滞」という症状で、実年齢より3つ下という設定を入れる必要があったのだろうか? 確かに「停滞」と「加速」というキーワードで、物語の機軸にはなっているけれども、本来ならば(ネタバレ→)「姉」の死ということから生まれた主人公内面の原因の発見があまりにも唐突であったし、それを克服することへのヒロインのかかわりがもう一つしっくりこなかった。

 そういう意味で、この作品はどの部分を切り取ってもすばらしいのだが、全体としてみれば平凡な作品になっているのではないかと思う。
 とはいえ、僕は好きですよ、この作品^^

 そうそう、テレビ未放送の13話は、ストーリーとしての重要性は全くないし、雰囲気もエロっぽく作られているので、あまりおすすめはしない。12話までの作品としてみた方がよいと思う。

 ちなみに、この続編として作られた「おねがい☆ツインズ」は、この作品とは全く逆で、ヒロインに魅力は感じられなかったけれども、その設定とストーリーの作り方が意外性に満ちていて、おもしろかったというのが、ぼくの印象。
 これも、近いうちに感想を書きます^^。
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くろねこ博士の異常な愛情
 「かしまし」というアニメがある。最近はやりのガールミーツガールだけど、ま、ちょっと違うテイストがある。

 僕の友人のくろねこさんが、後半だけだけど、詳細なレビューを書いているので、参照は↓

http://blackleg.blog57.fc2.com/blog-category-0.html

…ん??


 をい、こら、まてw どんな作品やねんwww

 っていうか、これ、このままなら思いっきりテレ東の放送コードに引っかかるんですがw いや、テレ東でなくても、千葉テレビでもtvkでもあかんやろうなぁw

 いや、ほんと、この情熱が、どこからわいてくるんだろうか?


 それにしても、30分の番組から、架空のストーリーを捏造するのに3ヶ月かけたくろねこさんの「ゆがんだ」情熱に拍手。ということで、次回作まだ~~~~~w

 あ、「かしまし」については、DVDでテレビ未放送分を補完したら、感想を書く予定です。すごく無駄が多いけれども、よい作品ですよ。まあ、いじり甲斐があるというのは正直そのとうりですが^^;


私信
 くろさん、正直おもろかったですw っていうか、どういう脳内補完をしながら「かしまし」みてたんですか???? もしかして、テレ東以外からでむぱ受信してません^^; というわけで、DVD収録のテレビ未放送分13話のレビューも、もちろんやりますよね!
「駄目青春の日々」(漫画評:麦ちゃんのヰタ・セクスアリス)
「麦ちゃんのヰタ・セクスアリス」立原あゆみ(第1部8巻、第2部3巻)
集英社マンガ文庫
baku

現在この装丁のものは絶版となっています


 かつて…、といっても、ほんの20年ほど前までは、未だ恋愛の神聖性は完全には崩壊していなかった。
 …などというと、おまえが年をとったからだろうといわれそうだが、この物語では実際に、まだ高校生、そして大学生たちの恋愛が「詩編のような哲学性を持った物語」として描かれている。
 それは、70年代という時代が持ち得た「空気」が生み出したものであり、おそらく21世紀のこの日本では生まれ得ない純愛の物語である。

 さて、本編の感想に入る前に、周辺のはなしをいくつか。

 まず、作者の立原あゆみについては、マンガ好きならばおそらく、あの大長編やくざマンガ「本気!」を描いたバリバリの男性であることはご存じかと思う。
 が、本作が執筆された当時、彼はもっぱら少女マンガ作家であり、その性別も一般的には「女性」であると思われていた。なぜ、彼が少女マンガを描くことをやめ、少年マンガ、しかもやくざマンガを描くに至ったかは、僕は知らない。ただ、彼が少女マンガを描いていた時代というのは、少女マンガがもっとも文学性を持っていた時代であったことは確かである。萩尾望都の「ポーの一族」、山岸涼子の「日出処国の天子」、竹宮恵子の「地球へ」etc.…と、今読んでも読み応えのある作品が、少女マンガで数多く排出されたのがこの時代である。
 一方で、少年マンガでは、いわゆるスポコンマンガが我が世の春を謳歌し、バトルマンガが一世を風靡し始めた頃であり、文学性のある作品は、雑誌のツマの地位に押しやられていた。この風潮が下火になるまで、すなわち青年誌が台頭しマンガの主流になるまで、漫画家が文学性ある作品を描くためには少女マンガでなければならなかったといっても過言ではない(たぶん過言w)。
 そういった時代状況で、文学性を前面に押し出したこの作品が、少女マンガというフィールドで発表されたのは致し方なかったかと思うし、その後、青年誌の影響で、少年漫画誌が文学性を取り戻した過程で、彼が発表の場をそちらに移していったではないかというのが、僕の邪推。まあ、それが何でやくざ漫画かはよくわからないが…。

 つぎに、この作品は第2部の中途半端なエピソードで、突然終了している。この理由も実は、よく知らない。主人公「麦(ばく)」とヒロイン「やよい」の再会の物語が続くのかと思って、もうすでに20年以上待っているのだが…。
 もっとも、むしろ、そのことがこの作品に不思議な余韻を与えている。最も大切なものを奪われた麦の再生の物語が、それこそ日常という時間を重ねるしかないのだという、当たり前の事実である。

 さらに、実は、僕は、この作品の主人公のいた場所をたどっている。現在この主人公が生まれた場所にほど近い場所に(といっても電車で小一時間かかるが…)住んでいるし、大学時代は、彼と一緒の大学に進んだ(学部は違うが)。
 いや、正確に言うと、この作品を読んで進む大学を決めたと言っていい。我ながら、なんと浅薄なとも思うが、一番多感である時期にこの作品に接したのだから、まあ、仕方ないだろう^^;


 さて、いよいよ本編の感想である。居住まいを正しながら…。

 上で、僕はこの作品を「純愛」の物語と描いたが、それは正確に言えば「命」の消滅と再生、承継に対する深い愛の物語でもある。主人公、秋田麦が、そもそも「命」に対する深い愛情を背負って生まれてきたという背景を持っている。主人公の父、秋田記(しるす)は、北海道の田舎から主人公の母、つまりその妻を奪うように連れ出し、しかし、麦の母は麦を産んでやがて命を落とす。記は、麦に妻に対して与えうる愛情のすべての注ぎ込む。有り体に言えば、死んだ人の分まで大切にするということなのだが、麦の「命」に対し敏感すぎるほどのパーソナリティーは、ここから生まれる。
 第一部の最初の方では、高校生らしい恋愛もする。ふつうに少しかわいい子に、「こんなものかな?」などとちょっと妥協した交際をする(実は、後々の麦の人生に多大な影響を与えるヒロインなのだが)。
 …が、次に出会う「星子」が、麦の人生の価値観を180度ひっくり返してしまう。彼の命に対する鋭敏さを揺すぶり起こすのが、この星子とのエピソードだ。このエピソードはその後の麦の物語の根幹に常に流れ続ける。

 さて、この作品の根底に流れるものは何か? 一つは、死という概念の再構成だと思っている。(ネタバレ→)麦の惚れた星子は、麦の入り込めなかった彼女の心の奥の「悲しみ」で自らを死へと誘わせる。麦はその死に飲み込まれようとするが、記の愛情で命を長らえる。
 ここで、麦は、途絶えてしまったものの命の継続に気づく。記が麦に注いだ愛情は、麦へのそれと同時に、死んでしまった麦の母、記の妻への愛情である。人の命の断絶は、しかし、その「人」としての断絶ではない。あるものは「血」として、あるものは「記憶」として、あるものは、それに注がれた「愛情」として、命の断絶のあとも残るのである。
 星の悲しみによって、北へ向かった麦は、バクスターという競走馬との出会い、別れ、そのことによって「命」を継ぐことを自らの未来を重ね合わせることになる。

 麦が自問するのは、常にぎりぎりのところで「命」を継げる方法の模索であったと思う。

 もうひとつ。この作品の主人公麦は、そりゃもう、もてる^^; もてて、もてて仕方がない。でも、星子の一件以来、彼のスイッチはどこかでoffになる。踏み込むことと、立ち止まることの躊躇をくりかえす。もちろん、この時代、これは、麦が特別というわけでもなかったのだと思う。たぶん、今の空気とは違うのではないか?
 そこに、70年代がある。ちょうどマンガ「東京80's」(あれも好きな作品だった)と、この時代の間に大きな断絶があったのだろうかと思う。


 まあね、実際、今読み返してみたら、結構「イタイ」麦の「ポエム」とかあって、赤面しちゃいそうなんだけど、それでも、ちゃんと居住まいを正して、真正面からこの作品を読めば、70年代の空気というか、そこに息づいていた人たちの「恋愛」に対する真摯さが伝わってくるのではないだろうかと思う。

 Amazonとかで探しても、今この作品を手に入れるのは、結構骨だけれども、もし、気になるようならマンガ喫茶なんかで探してみてほしい。
 あなたがバブル以降の青春を送った人であれば、そして、そこに何か空虚なものを感じたのならば、その空虚さを埋め合わせる何かを見つけられるかもしれない。

 今回は、あえて冒頭のあらすじは書かない。ひどく抽象的な感想しか書いていないけれども、たぶん、ボクの中ではもうすでにそれくらい消化されている作品だから、これでいいと思っている。

ps.
 実は、この感想は結局、本作品を段ボール箱から出すことを断念して、記憶に頼って書いているが、それでもかなり鮮明に情景を思い出す。それだけ、影響を受けているのだなと思う。たぶん、それもこの作品の「命」を継ぐ作業なんだろうなぁと、そんな風に思う。
 50本目の感想を、これにして、でも、書きたいことがなかなか書けなくて、結構産みの苦しみを味わいました^^; でも満足していないw また読み返す機会があれば、感想第2部でも書こうと思ってるw いや、このブログって、僕の覚え書きだから^^;

 つうことで、とりあえず50本目の呪縛から解放されました!
「逢坂総司の視聴記録」をリンクに追加
 というわけで、Filnでお世話になっている、逢坂さんのアニメ視聴ブログをリンクさせていただきました。

逢坂総司の視聴記録(http://aisaka-mov.seesaa.net/)

 アニメ制作の過程にも詳しくって、そのあたりからロジカルに掘り起こして批評する姿勢は見習いたいなぁ~と思っています。
 まずは、今シーズンの僕の注目アニメ、コヨーテ・ラグタイムショーが遡上に載せられていますので、大注目です^^

ps.
 でも、やっぱり、12姉妹が、タイムボカンシリーズの悪玉トリオ的ポジションに収まりそうな不安が払拭できません^^;
「メイド萌え~」(マンガ評:エマ)
「エマ」森薫著 全7巻
ビームコミック(エンターブレイン)
ema


 さて、本当に久しぶりの感想。書きたいと思っていた題材もたまっているが、とりあえずは、一番最近読んだ漫画をば。

 というわけで、今回は「エマ」。「英国恋物語(←何じゃそりゃw)エマ」として、アニメにもなったが、そちらの方も非常にできがよかった…が、まあ、さすがに、漫画の方はアニメでは背景でしか語られない部分まで、こってりねっとりとかかれており、7巻というボリュームであるが、かなりおなかいっぱいになる。

 誤解を招きそうにも思えるが、あえていえばプロットはシンデレラである。不幸な灰かぶりが美しい衣装ではなく、知性を与えられ、王子様ならぬジェントリーに見初められる話。
 これを、英国がもっとも輝いていたヴィクトリア女王の時代という舞台に置き、作者による徹底した取材と趣味により、本当に細部までてディテールにこだわって大人の漫画として仕上げている。
 作者は女性であるが、描かれるラインはいわれるまでわからないほどに骨太である。この手の漫画を女性作家が描くと、その時代にはあり得ないような細身にしてみたり、手足を蜘蛛のように伸ばしてみたりするものであるが、作者の森薫は見事にふくよかな体をコルセットで絞り込む当時の女性の豊かなラインを再現して見せている。
 男性の方も、貴族やジェントリーの「カチ」っとした姿と、市井の人々の風俗を飾ることなく描いている。そこに「嘘」を入れないことで、何となくマンガっぽい登場人物の「顔」の違和感を払拭している。
 もちろん、町の風景、屋敷の調度、ちょっとした小物についても、コマの片隅にでてきて、ほとんどの読者が見逃してしまいそうな部分まで徹底してこだわっている。

 ところで、同時代(といっても、ヴィクトリア朝後の第一次世界大戦の頃であるが)の英国を題材にした作品として、以前にも引き合いに出した小説、ゴールズワージーの「林檎の木」がある。
 英国は現在でも階級社会であるが、これらの作品の背景になった時代では、現在よりももっと厳然とした階級社会が存在する一方、従来の階級制度を破壊するような「資本家」という階級が生じた時代である。「林檎の木」では、これらの階級制度自体を「知っている」ことが物語の理解に重要になるが、それ自体が正面切って物語を動かす力にはなっていない。しかし、上流階級の者と農夫の娘という当時としては「許されない恋」の物語であり、結果としてそのことが隠れたきっかけとなり、一つの悲劇を生む。
 もっとも、この悲劇の引き金は実は日本人である僕たちは、知識としてわかっていても、いわれないと気がつかない(特に僕がこの作品を読んだのは中学生の時であるからよけいであった)。せいぜい武者小路実篤の「友情」程度の話でしかないと思えた。
 が、「エマ」では、まさにこの「階級制度」自体が主人公たちに前に立ちはだかる障害そのものになっている。おそらく英国にこの話を持っていけば、かなり陳腐なお話になるのであろうが、こういった事情の知識を「実感」として持たない僕たちにとっては、非常に「わかりやすい」物語の横軸になっている。

 最初に述べたように、この物語は「灰かぶり」の物語である。が、シンデレラで語られるのは、王子様に見初められるまでの物語であり、そこから先、灰かぶりが王室に迎えられるエピソードはない。しかし、「大人」が絶望するのは、たとえ王子に見初められたとしても、せいぜい灰かぶりなど「側室」止まりにしかならないことにある。「血」というつながりをもっとも重視する階級制度においては、出自のあやふやな者の「血」を混ぜることなど、言語道断なのだ。
 だから、この物語は、灰かぶりが王子に見初められた後、その身に受けるであろう苦難をこれでもかというくらいに劇的に描いているといえる。
 そういう意味で、僕はこのマンガを「大人の」と表したわけである。

 と、ここまで、こう書いてきたものの、では、大人の鑑賞に堪えられる「作品」にまで昇華できているかといわれれば、多少の躊躇がある。
 確かに、これでもかと苦難にぶつかるヒロイン、エマと主人公ウィリアム。ウィリアムに思いを寄せ、一度は婚約者の地位まで自力ではい上がるエレノアの…ムニャムニャ…にしろ、その心情に葛藤は描かれているものの、人間の見せる弱さによる「想いのぶれ」があまりなく、よく言えば「純粋な物語」であり、悪くいえば「物語としての底が浅い予定調和」ものになっているような気がする。
 それは、ほぼ1巻で出尽くしたキャラクターたちの、読者が予想するであろう結末通りに7巻でお話が収まっている点からもわかる。
 ただ、弁護するならば、実は作者はこんな長編を予定しておらず、3巻程度でお話をまとめるつもりであったのではないかと思われる。そうであるならば、よけいなブレを作る余裕はなく、その尺にきちっと収まるストーリーを作る上で、1巻であまり複雑なキャラクター設定はできない。しかし、最初からこれほどの長編にするつもりならば、この作者はたやすく「できた」と思われる。
 そのことは、5巻にでてきたウィリアムの父リチャードの若かりし頃のエピソード、そしてその伏線から紡ぎ出される7巻の最後での彼の妻、息子たちとの会話。そこから描かれる彼自身の物語からもうかがえる。実は、この作品で一番心情を人間らしく描かれているのはウィリアムの父であるように思われ、そういった「キャラクター」と「物語」を作れる作者にとって、作品全体をもっと複雑にし、人間を描くことは、さほど難しいことではなかったのではないかと思われる。

 7巻で、作者の森薫は、あとがきマンガに「外伝」を書くと書いているが、さて、どの辺だろうか? 極悪子爵wやドイツ人実業家のヴェルヘルム・メルダースの物語がこってりと読んでみたい気がするのは、僕だけかな? きっと、おもしろいに違いないと、5巻を読み返して思っているのは、僕だけかな?

 さて、冒頭のあらすじ。新興ジェントリーのジョーンズ家跡取りぼんぼんウィリアムは、ある日父にいわれて、かつての家庭教師ケリーを訪ねる。ウィリアムはケリーがずっと苦手で敬遠していたのだが、それでもこの日は仕方なく挨拶に出向いた。ところが、ケリー家に入ろうとしたまさにその瞬間、勢いよく開いたドアで顔を打ち付けてしまう。驚いて顔を上げたそこには、眼鏡の麗人メイドが…。ウィリアムは一目で恋に落ちた。ただ、その辺に疎いウィリアムは、それでも必死になって、ケリー家を辞去する際に、わざと、ハンカチを忘れていく。ケリーはその意図を理解し、メイドのエマに手袋を届けさせる。
 そして、恋物語が始まる…。


ps
 さて、いよいよ次回は50本目の感想文。ああああ、あんなに構えなければよかったw 「僕たちの疾走」か、「麦ちゃんのヰタセクサリス」の感想を書こうと思って、未だに迷っているが、問題は両方とも片づけて段ボールにはいって、簡単にでてこないこと。読み返さないと書けないwwww
再始動……
 Filnの方では、そろそろ、エンジン全開になってきたのだけれども、こちらの方も、動き出せそうです。

 というわけで^^

(まずは自分にハッパをw)