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駄目オタ徒然草
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「井戸が掘れたよ!」(書評:イリヤの空、UFOの夏)
イリヤの空、UFOの夏」秋山瑞人著
電撃文庫(角川書店) 全4巻
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 ライトノベルというジャンルがある(らしい)。「らしい」というのは、ライトノベルそのものの定義があいまいであり、境界線がはっきりしないことにも起因する。
 「ライト」は、正しいとか、明るいとか、右ではなく「軽い」という意味だそうだ。
 とは言え、何となくその辺のニュアンスが漂ってくるのは、現在「電撃文庫」などで出版されている作品、コミック風のイラストが表紙や、挿絵に入っていることが多く、扱うテーマはファンタジー、ホラー、SF、学園ものが多い。主人公は中学生から大学生くらいが多く、文章自体がいわゆる口語(と言うより、会話文ですな)。比較的セリフが多く、一文が短め。キャラクターは心理描写でこつこつと描くのではなく、最初からバ~ンと、定型的な人物像を当てはめていることが多い。

 …なんのことはない、その洗礼を最初に浴びたのは、僕の世代。新井素子に、高千穂遙田中芳樹に氷室冴子らの作品が、これにあたると、思われる。中でも新井素子は僕にとって鮮烈だった。

 で、この作品も、その中に含まれると、一般には言われている。多分、その定義を用いれば、あまり間違ってはいないだろう。が、ライトノベルというときに、その対象読者層は、やはり主人公の世代、つまり中学生から大学生であると思われているようだが、もし、そうであるならば、この作品は当てはまるか、やや疑わしい。
 というのも、僕たち「プチオヤジ世代」を、この作品が対象にしているようなにおいがぷんぷんするからだ。
 まあ、プチオヤジ世代というのは、いまここで考えたネーミングで、だいたい昭和30年代中盤~40年代後半生まれあたりを指すと思ってほしい。
 僕たちの世代の共通認識は、戦争は知らない、でも、冷戦は知っているということだ。僕たちが子供時代を過ごした頃は、ソ連と合衆国、それにその取り巻き国が何時核戦争をおっぱじめてもおかしくない雰囲気があった。だから、僕たちが思っていたのは「冷戦さえ解決すれば、世界は平和で満たされる」ということだった。
 そして待ちに待った冷戦の終結。ハンガリー国境が開放され、ベルリンの壁が崩壊し、ソ連があっけなく世界地図から消えた。だが、そこに待っていたのは「平和」とはほど遠い、世界中の人が世界中の人を疑心暗鬼で見る世界だった。
 これが、僕らの世代の失望感の原因(だいたい、最近はやりのエセ国家主義・エセ保守回帰ブームも、実は根っこは同じだと思っているが、この辺はまた別の機会に)。

 最近、若手…といっても、僕らのプチオヤジ世代なのだが、その世代のクリエーターの作品が世に認められ始めている。そこでよく見るのが「冷戦のやり直し」だ。僕のレビューでもとりあげた「雲のむこう、約束の場所」や、「最終兵器彼女」が、そんな世界を舞台に物語を作っている(恥ずかしながら、僕自身も大学時代にそんなシナリオを書いたことがある)。冷戦の終わり方、世界の再構築の仕方を、どこかでどうにか間違えてしまった。そんな思いが強いのかもしれない。明日、核戦争が起こるかもしれない。ノストラダムスの予言は、もしかしたら、第三次世界大戦を予言しているのかもしれない。そんな閉塞感を抱えていた、僕たちの学生時代。もしかしたら、行き着く先がちょっと違っていたかもしれない世界へ思いをはせてみる。
 そんな臭いがぷんぷんする。そんな作品。

 前置きが長くなったが、まずは冒頭のあらすじ。

 主人公は中学2年生、浅羽直之。自衛"軍"とアメリカ軍が同居する、園原基地の街、園原中学の新聞部(学校未公認)の部員。親友だか、親分だか少々属性不明の水前寺部長の腰巾着といわれながら、端から見たらえらく刺激的な日常を平々凡々に暮らしている。
 浅羽は中学2年生の夏休み、園原基地をみおろせる山で水前寺と二人でキャンプ生活を送る…が、これは単なるキャンプではなく(夏休み中なのだから、その時点で普通ではない)、園原基地に出現するUFO、正確には幽霊戦闘機(フーファイター)を見つけるためである。もちろん、おいそれと見つかるわけもなく、夏休みはほぼ徒労に終わり、山を下りる二人。浅羽は、まっすぐ帰る気になれず、「気持ちいいぞ」と、噂に聞く夜の学校のプールへ。そこで、見たこともない少女に出会ってしまう。
 彼女の名は、伊里野加奈(いりやかな)。偽名とも、本名とも分からぬ彼女に、成り行き上浅羽は泳ぎ方を教えることになる。そして、その彼女の両手首には銀色の半球が埋め込まれている。しかも、突然の鼻血。あたふたする浅羽。
 そこに現れる榎本という男。どうも伊里野と知り合いらしい。彼曰く、「帰れ」。もともと主体性の希薄な彼は、後ろ髪を引かれるように、帰途につくが、榎本と一緒にいた男達に車で送ってもらう途中から記憶が飛んでおり、いつの間にかコンビニのベンチにいた。
 混乱する浅羽。もちろん、彼の混乱はそれではすまなかった。翌日やってきた転校生は、そう、プールの彼女、イリヤだった。

 おそらく、読者はタイトルと、冒頭のこのストーリーで、イリヤが何らかの形でUFOに絡み、浅羽とこのイリヤの関係を中心に物語が進むことを予測する。これを予測させて、物語のおおざっぱな地図を広げる作者の筆は秀逸だ。
 もちろん、宝の地図に分かりやすいものはなく、イリヤと榎本、それに、保健室の椎名が語る断片的な情報、加えてある意味一番のスーパーマン、水前寺の拾っていく手がかりと証拠をこの地図に書き込むことによって、宝のありかがはっきりしてくる。
 掘り当てた宝は、しかし、絶望的な色をしている。中学生ではどうにもならない。いや、たとえ、大学生でも、大人でもどうにもならない背景がだんだんと広がっていく。しかも、いわゆる"冷戦"状況にある世界が、刻一刻と"熱い"戦いに変わっていく状況が、生々しく描かれて、主人公達の焦燥感をよりいっそう濃密にする。

 この舞台設定で、"逃げ場"を失う"普通の中学生"浅羽がとった行動。それが、この作品のキモだ。
 普通の中学生にとっては、世界情勢とか、人類の未来は背負うにはあまりにも重い。たとえ、背負わなくてはならなくなったとしても、ロールプレイングゲームの主人公のように、いきなり世界を救う旅に出たりできるわけではない。その逡巡、葛藤、行きつ戻りつがプチオヤジ達のノスタルジーを刺激する。
 世界なんて救えるはずがない、でも、世界を救うために、いまここにいる一番好きな女の子を渡せといわれたら? いや、普通の中学生に、これにあらがう力など無いはずだが、それを承知で渡せといわれたら?

 実は、白状すると、僕はずっとこの物語を榎本の視線で読んでいた。そして、おそらく作者も榎本の視線で書いているような気がする。
 榎本は、組織の側の"大人"。だが、少女を利用しなければどうにもならない世界情勢に、辟易しながら、浅羽の青臭い行動力をまぶしく見ている。そう、どこか、僕らの世代の、若い世代と、老いた世代の中間におかれて悪あがきを繰り返すジレンマに似ている。
 「世界なんて、どうせ、冷戦が終わったって、よくなるはずなんて無いんだ。だったら、おまえ、青臭かった頃の俺、世界を敵に回して、自分の一番大事な者を守ったって良いじゃないか。誰もそんなことできるなんて思ってない。おまえ自身だって思ってないだろ? だったら、途中で挫折したって、誰も笑いやしない。そんな先のことを心配したって、どうせ、明日には世界が劇的に変わるかもしれないんだ。だったら走れ!」
 これはプチオヤジ読者の声、榎本の声、そして作者の声なんじゃないだろうか?

 エンディングは、ちょっと切ない。連載時は、ここで終わっていたらしいが、僕はここで終わった方がよかったと思う。
 詳しくは書かないが、エピローグは、蛇足だったように思う。せいぜい山の中腹に、よかったマークがあることを描写されれば、それで足りるだろう。


 なにはともあれ、この作品は、少年少女達のジュブナイルとしても読み応えがあるが、それよりもなによりも、プチオヤジ、冷戦世代にこそ読んでほしい一冊。
 甘酸っぱいノスタルジーを少々味わえる。

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ちなみに、この作品はアニメ化されている。実は、某アニメを録画していて、見返したときにこのアニメ作品のCMに惹かれた。で、近所のレンタルDVD屋で借りてきて4巻(全6巻)まで見た。映像のクオリティーはかなり高いのだが、どうも、物語自体が平板でおもしろく無いなぁと思い、見るのをやめようかと思ったのだが、たまたま古本屋でこの原作の2巻を発見、購入。ぺらぺらと読み進め、アニメとは違う魅力を感じたので、1巻、3巻、4巻は新品で購入。1巻から読み直し、一気に読み終えてしまった。
 実におもしろかった。で、DVDも視聴再開決定^^ 最後、どういう形で映像にするか。結構楽しみではある。レビューもそのうちに。
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